これから新しいお部屋を探すにあたり、家賃や間取り、駅からの距離などを重視する方は多いでしょう。しかし、意外と見落としがちで、入居後の生活費に大きく影響するのが「ガスの種類」です。
賃貸物件で使われるガスには、主に「プロパンガス(LPガス)」と「都市ガス」の2種類があります。この2つの違いを知らないまま物件を決めてしまうと、「思ったよりガス代が高くて家計を圧迫している…」なんてことにもなりかねません。
この記事では、お部屋探しを始める前に知っておきたいプロパンガスと都市ガスの基本的な違いから、気になる料金の比較、そして物件情報からガスの種類を見分ける具体的な方法まで、詳しく解説していきます。
それぞれのメリット・デメリットを正しく理解し、ご自身のライフスタイルに合った賢い物件選びの参考にしてください。
プロパンガス(LPガス)と都市ガスの基本的な違い
まずは、プロパンガスと都市ガスの基本的な違いについて見ていきましょう。
この二つのガスは、原料となる成分や各家庭への供給方法、そして料金体系に至るまで、様々な点で異なります。これらの違いを理解することが、適切な物件選びの第一歩となります。
日常生活に欠かせないインフラだからこそ、その特性をしっかりと把握しておくことが大切です。
原料と成分の違い
ガスの種類を分ける最も基本的な要素が、その原料と主成分です。
プロパンガスの主成分は、「プロパン」と「ブタン」です。これらは石油や天然ガスを精製する過程で取り出される炭化水素で、常温では気体ですが、圧力をかけると簡単に液体になります。
そのため、「液化石油ガス(Liquefied Petroleum Gas)」と呼ばれ、その頭文字をとって「LPガス」とも呼ばれます。
一方、都市ガスの主成分は「メタン」です。こちらは海外から輸入される「液化天然ガス(Liquefied Natural Gas)」を原料としています。
マイナス162℃まで冷却することで液体にしてタンカーで輸送され、日本の基地で再気化された後、各家庭に供給されます。
供給方法の違い
原料の違いは、各家庭への供給方法にも大きな違いをもたらします。
プロパンガスは、液体状態で容器(ガスボンベ)に充填され、そのボンベを各家庭や集合住宅の敷地内に設置してガスを供給します。そのため、全国どこでも供給が可能で、都市部から離れた地域や山間部でも広く利用されています。
集合住宅では、敷地内に大きなガスタンクを設置して各戸に供給する「集中プロパン方式」がとられることもあります。
対して都市ガスは、地下に張り巡らされたガス管を通じて、各家庭に直接ガスが供給されます。ガスボンベの設置スペースが不要で、安定した供給が可能です。
しかし、ガス管の埋設には大規模な工事が必要となるため、供給エリアは人口が密集している都市部が中心となります。
発熱量(カロリー)の違い
同じ体積(1m³)あたりのガスを燃焼させた際に発生する熱量、つまり「発熱量」にも違いがあります。プロパンガスの発熱量は約24,000kcal/m³であるのに対し、都市ガスは約11,000kcal/m³です。
数値だけを見ると、プロパンガスは都市ガスの2倍以上の熱量を持っていることになります。つまり、プロパンガスの方がパワフルであると言えます。
ただし、私たちが実際にガスコンロなどを使用する際に、火力の差を感じることはほとんどありません。
これは、ガス機器がそれぞれのガスの種類に合わせて、ガスの噴出量を調整し、同じくらいの火力になるように設計されているためです。
安全性の違い
プロパンガスと都市ガスは、どちらも国の厳しい基準に基づいて安全対策が講じられており、正しく使用していれば危険性は高くありません。
ただし、万が一のガス漏れに備えるための性質に違いがあります。
プロパンガスは空気よりも重い性質を持っています。そのため、ガスが漏れた場合は床付近の低い場所に溜まります。ガス漏れ警報器は、この性質を考慮して床から30cm以内の低い位置に設置されます。
一方で、都市ガスは空気よりも軽い性質を持っています。ガスが漏れると天井付近の高い場所に溜まっていくため、ガス漏れ警報器は天井から30cm以内の高い位置に設置することが推奨されています。
気になる料金!プロパンガスと都市ガスの比較
お部屋探しで最も気になるポイントの一つが、毎月の光熱費でしょう。特にガス料金は、プロパンガスか都市ガスかによって大きく変動します。
ここでは、なぜ料金に差が生まれるのか、その仕組みと具体的な料金の比較について詳しく解説します。引越し後の家計をシミュレーションするためにも、ぜひ参考にしてください。
なぜプロパンガスは料金が高い傾向にあるのか?
一般的に「プロパンガスは都市ガスよりも高い」と言われますが、その主な理由は料金制度と供給コストの違いにあります。
都市ガスは、ガス管を通して広範囲に供給する公共インフラの側面が強いため、料金は国の認可が必要な「総括原価方式」に基づいて設定されています。
これは公共料金の一種であり、ガス会社が自由に料金を決められるわけではありません。
それに対して、プロパンガスは「自由料金制」です。各ガス会社が仕入れ値や人件費、利益などを考慮して自由に価格を設定できます。
また、各戸にガスボンベを配送・設置・交換するための人件費や運送費といったコストがガス料金に上乗せされるため、都市ガスよりも価格が高くなる傾向があるのです。
実際の料金はどれくらい違う?【料金シミュレーション】
ガス料金は、毎月固定でかかる「基本料金」と、ガスの使用量に応じて変動する「従量料金」の合計で決まります。
では、実際にどれくらいの差が出るのでしょうか。一人暮らしの平均的なガス使用量(5m³)を例に比較してみましょう。
都市ガスの場合(東京ガスエリア参考)
- 基本料金:約760円
- 従量料金(5m³):約150円/m³ × 5m³ = 約750円
- 合計:約1,510円
プロパンガスの場合(地域や会社により変動大)
- 基本料金:約1,800円
- 従量料金(5m³):約600円/m³ × 5m³ = 約3,000円
- 合計:約4,800円
※上記はあくまで一例であり、料金は地域やガス会社、契約プランによって大きく異なります。
このシミュレーションでは、月々約3,000円、年間で36,000円もの差額が発生する計算になります。ガスの使用量が増える二人暮らしやファミリー世帯では、さらに差が大きくなる可能性があります。
プロパンガスにもメリットはある?
料金面では割高な印象のプロパンガスですが、メリットも存在します。
最大のメリットは、災害時の復旧が早いことです。地下のガス管網全体がダメージを受けると復旧に時間がかかる都市ガスに対し、プロパンガスはボンベと個別の設備さえ無事であればすぐに使用を再開できます。
これは、災害の多い日本において大きな利点と言えるでしょう。
また、物件によっては、ガス会社が給湯器などの設備費用を負担する代わりに、その費用を月々のガス料金に少しずつ上乗せして回収する「無償貸与契約」を結んでいる場合があります。
これにより、入居者の初期費用が抑えられるという側面もあります。
物件情報からプロパンガスか都市ガスかを見分ける方法
これから住む物件がどちらのガスを使っているのか、事前に知っておくことは非常に重要です。
物件の内見時や不動産情報サイトを見ている段階で、ガスの種類を特定できるいくつかのチェックポイントがあります。
ここでは、誰でも簡単にできる見分け方をご紹介します。契約してから後悔しないように、しっかりと確認しましょう。
物件情報サイトでの確認方法
SUUMOやHOME’Sといった不動産情報ポータルサイトでは、物件の詳細情報ページでガスの種類を確認できます。
「建物設備」や「物件概要」といった項目をチェックすると、「都市ガス」「プロパンガス」または「LPガス」といった記載が見つかるはずです。
もし記載がない場合や、どちらか不明確な場合は、遠慮せずに掲載元の不動産会社に電話やメールで問い合わせてみましょう。
内見時にチェックするポイント
実際に物件を訪れる内見は、ガスの種類を自分の目で確かめる絶好の機会です。以下のポイントをチェックしてみてください。
建物の屋外を確認する
アパートやマンションの敷地内に、灰色や白のガスボンベが複数設置されていれば、その物件はプロパンガスです。一戸建ての場合は、家の裏手などに設置されていることが多いです。
ガスメーターを確認する
玄関横のパイプスペースなどに設置されているガスメーターを見てみましょう。メーター本体やその周辺に「LPG」「LPガス」「〇〇プロパン」といった記載があればプロパンガスです。
室内のガス機器のラベルを見る
キッチンに設置されているガスコンロや、給湯器のリモコン、本体などに貼られているラベルを確認します。
「LPG用」または「プロパンガス用」と書かれていればプロパンガス、「都市ガス用」または「12A・13A」と書かれていれば都市ガスです。
ガス料金だけで判断は禁物!光熱費全体で考えよう
ガス料金の違いは大きいですが、物件選びの際はそれだけで判断せず、家賃やその他の費用も含めたトータルコストで考えることが賢明です。
プロパンガスの物件は、ガス代が高い分、家賃が相場より安く設定されていることもあります。
ここでは、より広い視点で物件のコストパフォーマンスを見極めるためのポイントを解説します。
プロパンガス物件は家賃が安い傾向も
プロパンガスの物件は、都市ガスの物件に比べて入居希望者が集まりにくい傾向があるため、オーナーが家賃を近隣の相場よりも少し低めに設定しているケースが少なくありません。
例えば、家賃が5,000円安いプロパンガス物件があったとします。
前述のシミュレーションではガス代の差が月々約3,000円だったので、この場合は「家賃+ガス代」の合計で考えると、プロパンガス物件の方が安くなる計算になります。
物件を選ぶ際は、必ず月々のトータルコストで比較検討することが重要です。
オール電化物件との比較
近年では、ガスを使わず、調理や給湯などをすべて電気でまかなう「オール電化物件」も増えています。ガス代が一切かからないというメリットがありますが、その分、電気代が高くなる傾向にあります。
特に、日中に電気を多く使うライフスタイルの場合は、電気代が割高になる可能性があるので注意が必要です。
深夜電力プランなどをうまく活用できるかどうか、自分の生活スタイルと照らし合わせて検討しましょう。
ライフスタイルに合わせた選択を
最終的には、ご自身のライフスタイルに合わせて最適な物件を選ぶことが大切です。
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毎日自炊をする、冬場は毎日湯船に浸かるなど、ガスの使用量が多いと想定される方は、やはり都市ガス物件のメリットが大きいでしょう。
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逆に、普段は仕事でほとんど家におらず、食事は外食中心、お風呂はシャワーで済ませることが多いという方であれば、プロパンガス物件でもガス代の影響は比較的小さく、家賃の安さの恩恵を受けられるかもしれません。
まとめ
今回は、プロパンガスと都市ガスの違いについて、料金や見分け方、物件選びのポイントを解説しました。
- プロパンガス(LPガス)と都市ガスは、原料や供給方法、発熱量が異なる。
- 料金は、配送コストなどがかかるプロパンガスの方が都市ガスよりも高くなる傾向がある。
- 物件のガスの種類は、不動産情報サイトの設備欄や、内見時のガスボンベ・ガスメーターの確認で判断できる。
- プロパンガス物件は家賃が安い場合もあり、「家賃+光熱費」のトータルコストで判断することが賢い選択の鍵。
お部屋探しは、様々な条件を比較検討する必要があり大変ですが、入居後の快適な生活のためにも、ぜひ「ガスの種類」をチェック項目の一つに加えてみてください。
この記事が、あなたの理想のお部屋探しの一助となれば幸いです。
