賃貸マンションやアパートで生活する上で、多くの人が一度は経験するかもしれない「騒音トラブル」。
上の階から響く子どもの足音、隣の部屋から聞こえる深夜の話し声や音楽、生活リズムの違いから生じる些細な物音でも、毎日続くと大きなストレスになります。
「このくらいの音で文句を言うのはおかしいだろうか」「どこに相談すればいいのか分からない」「ご近所トラブルになるのは避けたい」と、一人で悩みを抱え込んで我慢してしまっている方も多いのではないでしょうか。
しかし、騒音問題は我慢していても解決しません。正しい手順を踏んで、適切な場所に相談することが、平穏な生活を取り戻すための第一歩です。
この記事では、賃貸物件で騒音トラブルに直面した際に、まず何から始めるべきか、誰に、どのように相談すればよいのか、そして円満な解決に至るまでの具体的な流れを分かりやすく解説します。
まずは客観的な証拠集め!騒音の記録方法
騒音トラブルの解決に向けて動き出す前に、非常に重要になるのが「客観的な証拠」を集めることです。
いざ管理会社や大家さんに相談する際、「いつも大きな音がしてうるさいんです」といった感情的な訴えだけでは、なかなか真剣に取り合ってもらえない可能性があります。
具体的な記録があることで、騒音の事実を客観的に示すことができ、相手方も状況を把握しやすくなるため、より迅速な対応が期待できます。
なぜ記録が必要なのか?
騒音の記録は、トラブル解決のプロセスにおいて、あなたの主張を裏付けるための最も強力な武器となります。記録があることで、以下のメリットが生まれます。
- 管理会社や大家さんが状況を正確に把握できる
- 騒音の発生源である相手方に、具体的な事実として注意喚起してもらえる
- 万が一、話がこじれて法的な手続きに進む場合にも、有力な証拠となる
感情的に「うるさい」と伝えるだけでは、「お互い様」で片付けられてしまうことも少なくありません。
しかし、「毎週金曜日の深夜2時から3時頃まで、1時間にわたって音楽が聞こえてくる」というように具体的に示すことで、問題の深刻さが伝わりやすくなります。
記録すべき5つの重要項目
では、具体的に何を記録すればよいのでしょうか。以下の5つの項目を意識して、ノートやスマートフォンのメモアプリなどに記録を残しましょう。
- 日時:騒音が発生した年月日と、始まった時間・終わった時間
- 場所:どこから音が聞こえてくるか(例:上の階、右隣の部屋など)
- 音の種類:具体的にどのような音か(例:子どもの走り回る音、掃除機の音、大声での話し声、楽器の演奏音、ドアの開閉音など)
- 頻度・継続時間:どのくらいの頻度で、一度にどれくらいの時間続くのか
- 騒音の程度:あなたの生活にどのような影響が出ているか(例:眠れない、テレビの音が聞こえない、会話が妨げられるなど)
可能であれば、スマートフォンのアプリなどで騒音レベル(dB)を測定し、その数値を記録しておくのも有効です。
便利な記録アプリやツール
手書きのメモでも十分ですが、スマートフォンのアプリを活用するとより手軽で正確な記録が可能です。
騒音計アプリを使えば、デシベル(dB)という客観的な数値で音の大きさを記録できます。また、録音機能を使えば、実際にどのような音がしているのかを記録することも可能です。
ただし、相手の会話などを無断で録音し、公開するような行為はプライバシーの侵害にあたる可能性があるので、あくまで管理会社などに状況を説明するための資料として扱いましょう。
賃貸の騒音、相談する相手と正しい順番

証拠となる記録がある程度集まったら、いよいよ具体的な行動に移ります。ここで重要なのが、相談する相手と順番です。
間違った相手に相談したり、手順を飛ばしてしまったりすると、かえって問題をこじらせてしまう可能性があります。冷静に、正しいステップを踏んでいきましょう。
【第一ステップ】管理会社や大家さんに相談
賃貸物件の騒音トラブルで、最初に相談すべき相手は、物件の「管理会社」または「大家さん」です。彼らには、入居者が快適に生活できる環境を維持する義務があります。
そのため、入居者からの相談に対して、状況の確認や注意喚起など、何らかの対応をとる責任があります。
多くの賃貸借契約書には、他の入居者に迷惑をかける行為を禁止する条項が含まれており、管理会社や大家さんはその契約に基づいて対応してくれます。
管理会社・大家さんに伝えるべき内容と伝え方のコツ
相談する際は、感情的にならず、あくまで「困っている」という姿勢で冷静に話すことが大切です。事前に集めた記録をもとに、以下の情報を具体的に伝えましょう。
- いつから騒音に悩んでいるか
- どのような音が、いつ、どのくらいの頻度で発生しているか(記録を見せる)
- 騒音によって、ご自身の生活にどのような支障が出ているか
- 匿名での対応を希望するかどうか(可能であれば伝えておく)
「穏便に解決したいので、まずは掲示板への注意喚起の貼り紙や、全戸への手紙の投函といった形で対応していただけないでしょうか」と、具体的な対応策をこちらから提案してみるのも一つの方法です。これにより、相手方も動きやすくなります。
【注意】直接本人に伝えるのは絶対に避けるべき?
「直接文句を言いに行った方が早いのでは?」と考える方もいるかもしれませんが、これは最も避けるべき方法です。
相手は騒音を出している自覚がない場合も多く、直接の苦情が思わぬトラブルに発展する可能性があります。逆上されたり、関係が悪化して嫌がらせを受けたりするケースも少なくありません。
必ず、管理会社や大家さんという第三者を介してコミュニケーションをとるようにしましょう。安全かつ円満な解決のためには、当事者同士での直接対決は避けるのが賢明です。
管理会社が動いてくれない場合の次の手

管理会社や大家さんに相談したにもかかわらず、「注意はしました」と言うだけで状況が改善されない、あるいは真剣に取り合ってくれない、というケースも残念ながら存在します。
その場合は、次のステップに進むことを検討しましょう。決して諦めずに、冷静に次の行動を起こすことが重要です。
【第二ステップ】警察に相談するケースとは?
「ご近所トラブルで警察を呼ぶのは大げさでは?」と感じるかもしれませんが、状況によっては警察が有効な相談先となります。ただし、どんな騒音でも警察が対応してくれるわけではありません。
警察に相談すべきなのは、「事件性がある」または「異常性が高い」と判断できるケースです。例えば、以下のような状況が挙げられます。
- 深夜に大音量で音楽を流す、パーティーで騒ぐなど、明らかに常軌を逸した騒音
- 怒鳴り声や物が壊れるような音が聞こえ、DVや虐待の可能性がある場合
- 直接苦情を伝えたことで、嫌がらせをされたり、身の危険を感じたりする場合
このような緊急性や事件性が疑われる場合は、迷わず110番に通報しましょう。
警察への相談方法と注意点
緊急性はないものの、どうすればよいか分からないという場合は、警察相談専用電話「#9110」に電話してみましょう。
#9110は、生活の安全に関する悩みごとを相談できる窓口で、専門の相談員が状況に応じたアドバイスや、適切な相談先を教えてくれます。
110番や#9110に電話する際は、現在の状況、住所、氏名を落ち着いて正確に伝えることが大切です。
匿名での通報も可能ですが、状況を正確に把握してもらうためには、身分を明かした方がスムーズです。
警察が対応してくれること・してくれないこと
警察官が現場に駆けつけた場合、騒音の発生源となっている部屋の住人に口頭で注意をしてくれます。
警察官という公的な立場からの注意は、多くの人にとって効果があり、騒音が収まるケースも少なくありません。
ただし、警察の役割はあくまで事件の予防や検挙であり、民事トラブルであるご近所トラブルに深く介入することはできません。注意をしても相手が聞かない場合、警察がそれ以上の強制力をもって騒音を止めさせることは困難です。
継続的な解決を求める場ではない、という点は理解しておく必要があります。
それでも解決しない…最終手段としての選択肢

管理会社に相談しても、警察に注意してもらっても、一向に騒音が改善されない。そんな八方ふさがりの状況に陥ってしまったら、心身ともに疲弊してしまいます。
しかし、まだ打つ手は残されています。最終手段として考えられるいくつかの選択肢を知っておきましょう。
弁護士への相談
法的な解決を目指す場合、弁護士への相談が選択肢となります。弁護士に依頼すると、まず内容証明郵便という形で、法的な根拠に基づいた警告書を送付してもらうことができます。
弁護士の名前で正式な書類が届くことで、相手に事の重大さを認識させ、態度の改善を促す効果が期待できます。
それでも改善されない場合は、民事調停や訴訟といった法的手続きに進むことになります。ただし、弁護士への依頼には費用がかかりますし、解決までに時間と労力を要することは覚悟しなければなりません。
自治体の無料相談窓口や国民生活センター
弁護士に相談する前に、まずは公的な相談窓口を利用してみるのも良いでしょう。多くの市区町村では、法律に関する無料相談会を定期的に開催しています。
また、消費生活センターや国民生活センターでも、賃貸契約に関するトラブルの相談を受け付けています。
これらの窓口では、専門の相談員が話を聞き、法的な観点からどのような解決策があるのか、次に何をすべきかといったアドバイスをしてくれます。
費用をかけずに専門家の意見を聞ける貴重な機会なので、積極的に活用しましょう。
最終手段としての「引越し」も視野に
あらゆる手を尽くしても状況が改善されず、心身の健康に影響が出ているのであれば、「引越し」も現実的な選択肢として考えるべきです。
もちろん、引越しには多額の費用と労力がかかります。しかし、騒音という日々のストレスから解放され、平穏な生活を取り戻せるのであれば、それは決して無駄な投資ではありません。
我慢し続けることで心身を壊してしまう前に、環境を変えるという決断も大切です。
その際は、次の物件選びで同じ失敗を繰り返さないよう、内見時に周辺の環境や音の響き具合を念入りにチェックすることが重要です。
まとめ
賃貸物件での騒音トラブルは、誰にでも起こりうる身近な問題です。しかし、感情的になったり、一人で我慢し続けたりしても、良い結果にはつながりません。
重要なのは、冷静に、そして正しい手順を踏んで行動することです。
- まずは「いつ、どんな音が、どのくらい」といった客観的な記録をとる。
- その記録を持って、第一に「管理会社や大家さん」に相談する。
- それでも改善されなければ、状況に応じて「警察(#9110)」や「自治体の相談窓口」に相談する。
- 最終手段として「弁護士への依頼」や「引越し」も視野に入れる。
そして何より、当事者同士で直接やり取りするのは避け、必ず第三者を介するようにしてください。
騒音のない快適な生活は、あなたが得るべき正当な権利です。この記事を参考に、ぜひ問題解決への第一歩を踏み出してください。
